投資や事業にはリスクがあるけれど労働にはそれがない、と勘違いをしている人がいるようですが、少し見方が甘いのかもしれません。労働にも体を壊すリスクや突然お金が入ってこなくなるリスクやら色々あって、安全ではありません。
「働く」は万能ではないので、収入源のひとつとしてはまあ頼れる方かな…程度に思っておいたほうが無難です。総活躍させてくれるようなところは実際には意外と少ないので、あまり老後対策としても機能しないようです。
値動きで投機的に大きく儲けることを期待しなければ、投資のほうが堅そうです。
「生涯」がまずムリな話
ダイヤモンド・オンラインの「最強の老後対策は「夫婦共働き」と断言できる3つの理由」によると、投資や事業で「本当に自分だけのもの」を持ち収入を確保するよりも、どこかで雇われであり続けるほうが老後対策としては最強なのだそうです。根拠がどうにも頼りないように感じるのですが順に触れていくと、
まず女性が結婚をして専業主婦になると生涯賃金2億円もの損になるとあります。以前ここでもそんな感じのタイトルの本があると紹介したことがあるかもしれませんが、それに感化されたのか、女性が家庭に入った場合の機会損失額を2億円と見込んでいるようです。
でもこの数字は多く見積もり過ぎと見てよいでしょう。女性の全年齢層を含めた平均年収は300万円いかないくらいですから、単純計算で×40年としてもその見積総額まで届きません。
「生涯賃金」という概念もそのうち意味のないものになるでしょう。昨年くらいから40歳以上の人員の大量整理がコロナ禍とは全く関係なく起こり始めて、これが普通のものとなりつつありますから、働く側が望んだとしても雇い続けてもらうということ自体が難しくなってきています。
人生100年時代とか言われてはいますが、雇う側にとってパフォーマンスが落ちた中高年の継続雇用は負担にしかならないので、早めに人員を整理し始めて将来の雇用負担義務の軽減をすでに進めています。
人材不足という状況はウソではないのですが、その言葉が当てはまるのは多くの場合は安くてキツい仕事であったり、あるいはやれる人が少ない最先端の分野などですから、いわゆる普通のサラリーマンが必要とされていたお仕事については徐々に人が要らなくなってきているので、一度入ればずっと雇い続けてもらえると思っているのであれば、ちょっと能天気過ぎるように見えます。夫婦二人でずっと正規雇用で…といければよいですが、あまり期待はできません。
続いて、夫婦二人で働けば老後2,000万円も怖くないともありますが、計算上はたしかに夫婦二人で働き続けて年金保険料を納めさえすれば、夫婦二人でもらえる将来の年金受給額は、サラリーマン+専業主婦の世帯よりも6万円近く増えることになりますが、年金収入についても先程触れた理由(40年も雇い続けてもらえない)から、実際には成立しなさそうです。
法規制が厳しいとは言われながらも、実際には勤め先の体力が弱ってきたら、まず先に手を付けられるのが人件費で、高ければ高いほどコスパを厳しく見られることになり、キープするのは難しいと判断されたらどんなに抵抗しても結局切らてしまいます。「投資や事業とちがって安全」とか思わされていた雇用だって、このように簡単に崩れてしまいます。
3つめの理由として挙げられている「リスクコントロールになるから」も少し怪しい感じです。というのも、もともと生活費をまかなうために二人で働いていたはずなのに、どちらかの収入が途絶えてしまえばやっぱりお金は足りなくなって生活は成り立たなくなるリスクは働き手が何人でもあまり変わりません。
収入減に合わせた生活費の見直しをすることは実際にはかなり難しいことらしく、危機的状況にあるのに生活費をなかなか落とせない…というよくFPに寄せられている相談例などからもその難しさがうかがえます。
自分でコントロールできる投資は強い・勤め先の都合で全てが決まる労働は弱い
このように、投資にも事業にも労働にもそれぞれよいところもリスクもありますが、その中でも投資は「だれか他の人のせいで被害を被る」部分が比較的小さいかな…とか思ったりもします。
労働の場合は、そこに属しているだけで他のメンバーの責任を負わされたり、合わないメンバーと居ることで健康を害したりと、人のせいで何か被害を受けることがあります。
投資の場合は基本的に失敗は自分の判断ミスで起きるので、その判断ミスを少なくすれば堅くお金を稼ぐことはできます。労働のように自分の担当分が上手くいったとしても稼げるかどうかは最終的には勤め先自体(+他のメンバー)に全て掛かっているのとは異なります。
しかも労働とは異なり、投資にはクビもありません。続けるか止めるかは自己判断に掛かっているので、何歳になってもずっと無理なく稼ぎ続けることが可能です。危ないと感じたら「やらない」と決めることができます。勤め仕事の場合は、命令に背くことにもなる得るので切り出すのが難しかったりします。
「自分でコントロールできない部分=リスク(対策が打てない)」ですから、最強というものがあるとすれば、そういった要素が少ないものにこそ与えられるべき称号なのかなと思うのです。