デジタル通貨

暗号資産は投資対象として安全か:ビットコイン価格の行方

暗号資産の価格が上昇しています。最も代表的な暗号資産であるビットコインの価格は、2020年秋の米大統領選挙の頃から上がり始めて、ピークではわずか半年で5倍程度に達しました。その後も高いレベルで推移していて、いよいよ暗号資産が金や外国通貨などと並ぶ投資対象としての市民権を獲得するか正念場となってきました。なぜビットコイン価格が急上昇したのか、今後も暴落の可能性はないのか、検討してみます。

ビットコイン価格が急上昇した背景

ビットコインは当初、仮想通貨と呼ばれていましたが、国が管理する通貨とは異なり国家の管理能力から離れた独自の価値が全世界的に共有されるものとして、ブロックチェーン技術で暗号化された資産=暗号資産と呼ばれるようになりました。最も知られたものがビットコインで、いまや暗号資産の代名詞になっています。

国家管理の下にある通貨とは異なり、普遍的な価値を保証する機関・仕組みが暗号資産にはありません。金=GOLDも同じような位置づけで、金の価値が地域・時代を超えて普遍的に認められているからこそ、多くの人が金を資産として保有しています。金は実物資産で、それ自体が特殊な用途に用いられて一定の価値の裏打ちがあります。しかも人工的に作ることができず、天然資源として産出量も限られますので、需要と供給の関係である程度、安定的で客観的な価値を測ることができます。一般的に金価格は基軸通貨である米ドルと対照的な動きをします。ドルの信認が高いときは金が売られ、ドルが弱いときは金に人気が集まります。金には金利がないので、米ドル金利が高いとき金は安く、ドル金利が下がると金が上がるという関係もあります。

ビットコインの話に戻ります。ビットコインの価値は数年前に大きなピークがあり、その後管理体制への疑問や、「仮想通貨」としての使い勝手の悪さから値を下げていました。しかし、2020年に入って新型コロナショックで世界経済が混乱し、米ドル金利をマイナスにしてでも景気浮揚を図ろうとするトランプ前大統領の発言などから、米ドルへの信認は大きく失われつつありました。2020年11月の大統領選挙の行方は混沌としていて、実際に投票日を過ぎてからも大混乱が続きました。米ドル以外の資産への一時的な逃避が模索される中で、世界経済は低迷していて実物資産へのニーズが高まらず、新たな逃避先として暗号資産、中でも市場規模が比較的大きなビットコインに資金が流れ込んだことが、価格上昇の最大の要因だと考えられます。

もちろん他にも契機となる背景はありました。電気自動車メーカーのテスラが、大量のビットコインを流動資産として保有したことも大きなインパクトでした。環境ビジネスの先駆者として注目を集めるテスラの行動は、それ自体大きなCM効果を持ち、追随する企業が現れればマーケットに厚みができます。

ビットコインのETF(上場投資信託)が認可されるのではないか、という期待も価格上昇の追い風になりました。金も取引や保管にコストがかかる現物取引は例外で、金融商品として取引できるように投資信託やETFが組成されていて、個人は普通そちらで取引を行います。ビットコインも取引所で株の売り買いをするようなイメージで取引されていますが、慣れていない人には口座開設から実際にビッドを出すまでかなりのハードルがあります。ETFなどで株式のように取引ができると、これもマーケット拡大への期待材料です。

価格は需給関係で決まるという観点からは、供給サイドの制約も価格を押し上げる思惑を招きます。技術的にはビットコインの半減期の問題であるとか、折からの世界的な半導体不測の中でマイニング(採掘=新規の供給)を行うことが一層困難になるとの観測を招きました。このあたりの検証はなかなか困難ですが、より一般的に普及していくことが価格の上昇・安定につながることを考えれば、価格上昇の要因に供給不足を強調する見方は、やや近視眼的に見えます。

最近のビットコインの急上昇は、やはり新型コロナ対応で各国が金融・財政を緩めた結果、世界的なカネ余り現象が生じ、新鮮味のある暗号資産への投資が注目を集めた結果、買い→価格上昇→買いの上昇スパイラルが一時的に生じたのが、最大の要因だと考えらえます。

最近の急落とビットコインの今後

ビットコインは4月の初めに1BTC当たり日本円で約700万円となり、いったんピークを迎えました。その後は調整局面に入り、500万円台での推移となっています。ピークからは大きく下げたとはいえ、ここ数年の水準からは大きく上昇したレベルで止まっています。

最近の急落も、最も大きな要因は米国の長期金利の上昇を受けたものと思われます。米バイデン政権の選挙公約がすべて実施されると、米国景気が過熱気味となり、財政規律も一時的には緩むことから米国債が売られて金利上昇、それがただちに株価に反映したのと同じ事情です。米国の株式市場が太平洋クラスだとすれば、暗号資産・ビットコインのマーケットはせいぜいカリブ海程度ですから波の立ち方も大きくなります。金は長い歴史に支えられた資産であり、米ドルの逃避資産的な位置づけを持つに至りましたが、暗号資産にはまだそこまでの歴史・信認はなく、株式市場の動きなどを増幅しつつ反映して動いていると考えられます。

もちろんテスラがビットコインを一部手放したとか、ETFの認可が思ったように進まないといった要因もあります。世界の通貨当局者から、本源的な価値の裏付けに乏しい暗号資産への投資には注意せよ、といった警告も見られます。しかしそれらはさほど決定的な価格決定要因にはなっていないように考えられます。

今後のビットコインの価格はどうなるのでしょうか。ある程度は世界の、とくに米国の株式市場に連動して、その上下の波を増幅しながら推移するものと考えられます。そうなると価格動向に最も大きな影響を与える要素は、新型コロナ感染の収束ではないかと思われます。米国の経済は構造的な改革を進めるために今後大きな政府支出を行い、一方で金融緩和も続ける姿勢を崩していません。資産価格の下落が起きれば、コロナ禍からの回復シナリオも頓挫してしまいます。ビットコインなどの暗号資産価格が多少加熱気味に推移しても、政策的な弊害はありません。現状の価格水準を下限として、しばらくは上下を繰り返して行くのがメインシナリオだと思われます。

暗号資産は成長途上の資産カテゴリー

最近の暗号資産・ビットコイン価格上昇は、新型コロナ感染拡大を受けた世界的な政策対応の結果のカネ余りが最大の要因で、米国株価のシャドウ相場的な色合いを帯びています。金利上昇や、新型コロナの収束観測などは価格低下の要因ですが、一方で暗号資産マーケットの担い手は着実に増えています。今後も成長途上の資産として基本的な上昇トレンドは維持しつつ、その時々の市場変動要因の影響を受けて推移すると考えられます。

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