電子書籍や電子カルテ、電子印鑑などインターネット技術が発展した情報化社会では、ありとあらゆるモノを「デジタル化」しようと推進する動きが活発化しています。それは、我々がモノやサービスを購入する時に使う「通貨」にも及んでおり、ある国が先駆けて「デジタル代替通貨」の流通を試みようと動き出しました。本項では、中国が発行を進めている仮想通貨「デジタル人民元」について詳しく解説します。
デジタル人民元とは何か?従来の人民元や暗号通貨との違いを解説
2020年4月14日、中国のネットニュースから人民元を思わせる真偽不明の画像が出回り物議を醸しました。毛沢東の肖像に「¥1.00」の表示、その正体は中国が発行を進めている仮想通貨「デジタル人民元」です。後日、中国から正式にデジタル人民元の試験運用が発表され、その動向に注目が集まっています。まずは、このデジタル人民元の正体が何であるかを見ていきましょう。
*デジタル人民元とは何か
デジタル人民元とは、中国の中央銀行である「中国人民銀行」が発行を進めている仮想通貨です。「NFC」や「Bluetooth」などの無線通信を使うことでネット接続せずとも決済・送金が可能なほか、QRコード決済への対応も検討されています。通貨の導入も簡単で、「アリペイ」など金融機関のアプリを通して利用できます。銀行が従来の紙幣と同様の勝ちを担保しているので、「人民元がそのままデジタル化した」通貨と言って差し支えありません。
*ブロックチェーン技術による台帳管理
デジタル人民元も暗号通貨と同様に、ブロックチェーン技術の応用による台帳管理となっています。台帳管理が不特定多数に分散している暗号通貨と異なり、デジタル人民元の台帳はの資金移動は中国人民銀行が管理する中央集権型であるため、合意形成をスキップしたスムーズなデータベース処理が可能です。また、デジタル人民元は中国人民銀行が独占発行権を持ち、通貨の発行は民間銀行に対してのみ行われるため、紙幣の枚数を超えて発行されることはありません。そのため、急激なレート変動によるインフレの心配もなく、従来の人民元と同様の価値を担保することができるのです。
*中央銀行デジタル通貨と暗号通貨の「法的」な違い
デジタル人民元は、中央銀行の債務として発行される「中央銀行デジタル通貨」です。この通貨は、ビットコインなどの法的な定義が曖昧な「暗号資産」とは異なり、円やドルなどと同様に「法定通貨」として正式に認められています。ただし、法律の問題で銀行券以外の法定通貨を発行できない国家の場合、公的な仮想通貨であっても従来の暗号通貨と同様の扱いになる場合があります。
デジタル人民元の狙いは?試験運用の目的と今後の展開
世界的な「ビットコインブーム」によって仮想通貨の取引が加速化すると、中国は即座に規制をかけて仮想通貨の法的規制を築きました。その後もブロックチェーン技術に携わり、仮想通貨マイニング企業と連携して様々な金融サービスを提供しています。このように、中国は環境面でも技術面でも「仮想通貨の扱いに優れている国」なのです。その中国が、なぜ今日になってデジタル人民元を発行する流れになったのか、そして今後はどのような展開が予測されるのかを探ってみましょう。
*現在はまだ試験運用の段階
年中無休かつ24時間常に利用できる決済手段として、今日我々が使っている千円札などの「銀行券」。これをデジタル化して、さらに利便化しようという議論は以前からありましたが、その実現には従来の管理体制を一新せねばならず、慎重な試験運用や実証研究が必要です。このデジタル人民元も2020年7月の時点では試験運用の段階で、蘇州市、深セン市、成都市、北京市、雄安新区(北京南東の副都心)の5都市内でテストが行われています。
*デジタル人民元の狙いは覇権競争?気になる今後の展開
デジタル人民元の発行で注目されているのが、仮想通貨の存在がもたらす「米中貿易戦争」への影響とその顛末。デジタル人民元の狙いについて「ドルの覇権を奪うことで、米国の中央集権化を崩すためではないか」との見解もあり、米国との関係が良くない途上国をターゲットにしているという説もあります。事実、仮想通貨であるデジタル人民元がメジャー通貨になれば、マイニング企業との結び付きが強い中国の経済的影響は計り知れないものとなるでしょう。
*中国と米国の間に起こる「世界分断」の可能性
途上国を中心に、米国との関係が悪化している国家が増えてきています。例えば、産油国で「代金としてデジタル人民元を使いたい」という意識が強まれば、デジタル人民元の流通が世界に広がる可能性も大いにありえます。さらに、デジタル人民元の流通がドル以上の規模になれば、米国と中国を堺に「世界分断」が引き起こされる恐れもあるのです。
デジタル人民元は「世界通貨戦争」の火付け役となるか?
デジタル人民元の目的や今後については仮説の段階でしかありませんが、これらが事実だとすれば中国という一つの国にとどまらず、ともすれば世界経済にも影響を及ぼす可能性にもなりうる重大発表です。また、日本がデジタル円を検討しているように、デジタル通貨発行への動きは世界中で起こると推測されており、大規模な「通貨競争」の勃発も懸念されています。これは個人・法人関係なく、皆が関心を持つべき社会動向なのです。