何かと話題の仮想通貨ですが、取引所の開設には金融庁への登録が必要です。その難易度はかなり高く、特にニュースにもなったコインチェックの流出事件があってからは、セキュリティ面を含む体制整備がなされていない限りは簡単には認可されない状況が続いていました。しかし、ここにきて状況は変わってきており、同社の登録も認められるようになってきています。そこで、以下ではその背景について見ていくことにしましょう。
仮想通貨とバブル現象
まず最初に、そもそも仮想通貨とはどういったものであるのかを見ておくことにしましょう。ニュースなどで、ビットコインやイーサリアムといった言葉を耳にすることが多くなりましたが、これらはすべて仮想通貨の一種です。仮想通貨というのは、ブロックチェーンと呼ばれる暗号化技術を用いて管理されている概念的な価値で、文字通り通貨の代用となる可能性を秘めたものです。しかしながら、通貨と異なり、国家の信用に裏づけされているものではないため、その本質的な価値を巡っては様々な意見が存在しています。すなわち、仮想通貨を創造するために行われるマイニングと呼ばれる作業に要するコストを価値に置き直したものが本源的価値であるという人もいれば、そもそも仮想通貨には価値など存在しないという人もいるというわけです。
このように仮想通貨の本源的価値を巡っては、一律に確立されている理論が存在していないことから、その取引価格のボラティリティは非常に高くなりがちです。そのことが顕在化したのがいわゆる仮想通過と呼ばれる現象で、近い将来に仮想通貨が通貨に代替することになるということを多くの人が信じたことによって、その価値が暴騰し、ビットコインなどの代表的な仮想通貨の取引価格が瞬く間に100倍にもなったというわけです。もっとも、明確な価値が伴っていなかったため、バブルが崩壊するのも早く、その後急速に価格は下落に転じて5分の1ほどになる結果となりました。
このバブル崩壊の一つの要因となったのが、仮想通貨の取引所を営んでいたコインチェックによるNEMの流出事件です。NEMというのは仮想通貨の一つですが、コインチェックに対してサイバー攻撃が行われたことで、同社に口座を開いていた人の多くが一晩にして全ての資産を失うという結果が生じたのです。このことによって、人々の間で仮想通貨のセキュリティへの不安が急速に高まり、その価値への信頼性が薄れたことで、バブル化していた取引価格が一気に下落に転じることとなったというのが事の顛末です。なお、流出したNEMについては、取り戻すことが非常に困難な状況になっているものの、損害を被った投資家に対しては、同社が速やかに保証措置を講じたため、被害者は最小限に抑えられています。被害者の中には芸能人なども含まれていたため、多くの人がニュースなどでこの事実を目にすることになりました。
仮想通貨交換業登録の難化と状況の変化
コインチェックの事件以前も、仮想通過の取引所を営むためには、仮想通貨交換業者として金融庁に登録することが必要でしたが、この事件以降、登録要件が格段に厳しくなりました。事件発生時点で同社は、「みなし登録業者」という正式に登録を受けていないが一種の猶予措置として業務を行うことが認められていた状況でしたが、事件によって正式に登録することが厳しくなったと多くの人が考えざるを得ませんでした。
しかしながら、仮想通貨の潜在力に目をつけたオンライン証券会社を営むマネックスグループが同社を買収したことで状況は大きく変わることとなります。もともと金融庁としても世界に先立てて仮想通貨のマーケットを育成したいと考えており、大企業の後ろ盾を得て、懸案だったセキュリティ面の管理体制を大幅に強化したことで、同社の正式登録を阻む理由は徐々になくなっていったことから、それによって登録を認める方向へと大きく舵を切ったというわけです。加えて、このままでは仮想通貨そのものが廃れてしまうという危機感が業界内で醸成されたことで、自主規制期間である日本仮想通貨交換業協会が立ち上げられて業界ルールが整備され、それによって各取引所の規律が確保される見込みが立ちました。これにより、2019年1月になってようやくコインチェックは仮想通貨交換業者として登録が認められることとなりました。
なお、コインチェックのほかにも交換業者の登録を希望しているとされる企業が数多く存在しているとされ、同社の登録が認められたことをきっかけとしてそれらについても徐々に登録が認められていくであろうと考えられています。もっとも、登録を受けるには、コインチェックが行ったような大規模な体制整備が求められるであろうことは想像に難くありません。
今後の仮想通貨の見通し
コインチェックがセキュリティ面の課題を克服して、取引所として営業を継続することができることとなったことを受けて、国内で仮想通貨の取引が困難になるという事態は当面は回避されました。もっとも、仮想通貨の価値を巡る議論は続いており、今後は通貨に代わる決済手段として定着するかが、その資産価値を左右することになるでしょう。